Quantcast
Channel: 猫と、水球。
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1906

女子代表合宿打ち切り問題⑧

$
0
0


※NumberWeb

水球女子代表問題とは何だったのか。大本監督がSNSで伝えたかった本意。

8/20(月) 8:01配信
イメージ 1
アジア大会を戦う水球日本女子代表。今回の問題が強化に影響を及ぼさないことを願う。 photograph by AFLO

 「水球女子日本代表」問題は、どこへ消えたのか。

 7月中旬、水球女子日本代表の合宿が途中で打ち切られるという前代未聞の「事件」が起きた。それを引き起こした要因の1つが、また、普通ではなかった。

 男子代表監督兼日体大水泳部部長である大本洋嗣が、SNSで女子代表の戦い方に異を唱えたことが引き金になったというのだ。

 一時はワイドショーでも再三取り上げられるなど世間の耳目を集めたが、結局は因果関係すらはっきりしないまま世間からは忘れ去られてしまった感がある。

 8月11日に第三者委員会の結論は出た。ひとまずは大本のけん責処分で幕を下ろすようだ。

 だが今回、大本の行為以上に問題だったのは、大本が「悪質行為」と指摘した女子選手のプレーである。

 7月下旬、スポーツ紙等を賑わした女子代表を巡る「事件」は、そもそも最初の女子合宿打ち切りという報道からして要領を得なかった。

 今回、これだけ水球関連のニュースが混乱したのは、第一報がまったく関連のない事項を、さも関連があるかのように書き立てたからだ。
これまで報道されている4つの要素。
 これまで報道されている要素は4つだ。

 (1)6月24日、関東学生リーグ決勝における秀明大(多数の現日本代表、元日本代表選手が所属)vs.日体大(現日本代表1名)において5枚もの水着が破れたこと。※5枚のうち4枚を秀明大の選手が破いた。

 (2)7月18日、女子日本代表と日体大の練習試合における危険なプレーで、日体大の監督が猛抗議したこと。

 (3)女子日本代表が朝5時台から4部練をするなどパワハラまがいの「猛練習」をしているらしいということ。

 (4)7月18日深夜、男子日本代表の大本監督が自身のFacebookで、女子代表の戦い方に異を唱えたこと。

 今回、私が触れるのは(1)と(4)についてである。
「悪意」のプレーに対する提言。
 (4)が起きたことでこの事件はスキャンダル性を帯びたのだが、(4)と関連があるのは(1)だけだ。

 記事によっては、(2)も(3)も(4)を引き起こす要因になっているような書き方をしているが、少なくとも大本は投稿した際(2)については知らされていなかったし、(3)についても特に問題視はしていなかった。これは第三者委も同様の見解である。

 ただ、投稿のタイミングは(2)が起きた深夜だったため、この件を知ったゆえの文章だと勘違いされてしまったのである。

 なお(2)に関し、猛抗議はパワハラに相当するという一部報道もあったが、第三者委は不問に付すとしている。結果的に(2)の当該選手を含む一部の女子選手が精神的ダメージを負い、合宿が打ち切られたとのことだ。

 問題となった大本の投稿は、現在はFacebook上から削除されている。しかし関連ワードで検索すれば、文章はすぐに見つけることができる。

 どの媒体も水着を破いたプレーに関し「悪意しかないのは明白」と書いている部分を抜粋している。ただこの指摘は選手批判というより、最後の「レフリーはこの行為を容認し……」という部分につながっている。8点差ゲーム(大本のFacebookでは10点差と書いてあったが事実誤認)で水着が計5枚も破れるなどというのは、やはり異常だ。そこまで強く接触する必然性がまったくない。

 つまり要約すると、「悪意」が明白なプレーを容認していては日本の水球に未来はないのでは、という提言だった。

超攻撃的で常識を覆す大本の戦略。
 大本の投稿に対する素直な感想を述べると、言葉の選択が少々不用意な感は否めないものの、「わかる」だ。もっと言えば「正論」だと思う。ただ、大本のこれまでを知らない人間が読んだら、ほとんど「わからない」だろうとも思う。

 男子代表が出場した2016年リオ五輪の前後、私は何度となく大本を取材した。大本は従来の常識を覆す戦略で32年ぶりに日本を五輪出場に導いた。簡単に説明すると、前線で守備をし、カウンター攻撃をかけ続けるもの。「10点取られてもいいから11点取る」という捨て身の超攻撃型スタイルだった。

 日本の水球はスピーディーで本当に魅力的に映った。「水球が」ではなく、「日本の水球が」おもしろかったのだ。
「世界のスタンダードを変える」
 そして、衝撃だったことはもう1つある。ある国際大会中、大本はこう言ったのだ。

 「(水球の)世界のスタンダードを変えるつもりでやってるんで」

 そのような大それたことを、まだ五輪でメダルも獲ったこともない国の人間が言うことが驚きだったし、痛快でもあった。

 水中の格闘技と称される水球は、接触プレーが当たり前のように繰り返される。水中で起きていることは審判も判断できないため、誤解を恐れずに言えば、水の中なら「何でもあり」だ。

 水中で肘鉄を食らって、肋骨が折れるなどということも珍しくはない。格闘技は厳格なルールの上に成り立っていることを考えると、水球は格闘技以上に無秩序とも言える。

 体格で劣る日本人は、それでもそのスタンダードに挑み続け、敗れ続けてきた。それを変革しようとしたのが大本だった。

 相手が守備陣形を整える前に攻め込むカウンター攻撃なら、肉体的接触を避けられる。「体格」に「スピード」と「技」で対抗しようとしたのだ。

 大本は海外メディアの取材を受けるたびに、つたない英語でこう発信した。水球は「ボールゲーム」であり、「ノー・レスリング」だと。
頻発するファウルが普及を阻害?
 大本がフェアプレーを訴え続けている理由は2つある。1つは競技の発展のため。そして、もう1つは、その方が日本に有利だからだ。

 水球は日本だけでなく世界においてもマイナースポーツだ。頻発するファウルが普及を阻害しているというのが大本の論だが、それは一理ある。

 女子の場合、水着の面積が男子よりも大きいため、ルールで禁止されているにもかかわらずつかみ合いが頻発する。胸が露わになることさえある。

 大本は、ことあるたびにこう話していた。

 「女子の水球を見て、娘に水球をやらせたいと思う親なんているわけがない」

 だからこそ、日本男子の「脱接触」型のプレースタイルは、世界の水球界に一石を投じたのだ。FINA(国際水泳連盟)でも日本代表の戦いぶりは、評価されていた。日本が目指す方向性は、世界の水球関係者にとっても歓迎すべきものでもあるのだ。


男子は十分メダルを狙える位置に。
 大本もその波を利用しようとしていた。ただ、マイナー競技ゆえ、待っていては誰も何も報道してくれない。そこでSNSを使用し、日本男子の戦いぶり、世界での評価、フェアプレーの重要性をことあるたびに発信していた。

 東京五輪で大本は、自身の集大成として、改めてフェアプレーに徹した戦い方を披露し、その上でメダルを奪取するつもりでいた。男子は今、十分メダルを狙える位置にいる。

 Facebookの投稿には、その並々ならぬ決意が見て取れた。

 東京五輪まで、もう2年しかない。

 そんな「後がない」という思いに突き動かされている最中に、前述の(1)の出来事を知った。大本は看過できなかったのだろう。

 日体大は(1)に関して事前に水球委員会に抗議文を提出している。ところが、具体的な改善策も提示されないままうやむやにされそうになったため、大本はSNSに投稿した。これがワイドショーなどで批判を集めることになったが、水球の現状を広く知らしめ、議論の場に引っ張り出したかったのだろう。
過失を挙げるとすれば言葉が。
 今回の投稿について、おそらくは「確信犯」だ。ただ結果的に、いくつかの誤解が重なり、予期せぬ事態を引き起こしてしまった。

 大本の過失を挙げるとすれば、言葉がつたなかったことと、正論過ぎたことだろう。誤解があったとはいえ、あの書き方では女子代表と摩擦が生じてもやむをえない。さらに書かれた方は逃げ場がない。正論はときに邪論以上に鋭い刃となるものだ。

 この一件に関して大本も過ちを認め、すでにFacebook上で謝罪している。今後、女子選手らに直接謝罪することも検討しているとのことだが、もう十分ではないか。

 これ以上大本を責めると、大本の指摘自体が悪いような印象になり、行き過ぎたラフプレーへの問題意識が薄まってしまう気がする。
日大アメフトなどと違うのは……。
 取り上げられた経緯はともかく、水球がこれだけ世間の注目を集めることは滅多にない。日大アメフト部、女子レスリング、アマチュアボクシングとスポーツ界の不祥事が続いているが、水球の事件はそれらとはまったく異質のものだ。

 リオ五輪が終わった後、私は『小説新潮』に「もがく海神」という長めの大会レポートを書いた。監督と選手が必ずしも一枚岩ではなかったことをうかがわせる証言も載せた。それでも大本は取り上げてくれたことに礼を言ってくれた。

 他の3つの事件との最大の違いは、事件の中心にいる大本は自分に都合が悪いことを指摘されたからといって逃げるような人物ではないということだ。

 日本水泳連盟は、今後、女子のラフプレーを防止するためのワーキンググループの設置を決めた。この事件をきっかけに、改めて女子代表の戦いぶりを検証して正すべきところは正し、変革の第一歩とすべきだ。でなければ、大本が流した血が無駄になる。
(「オリンピックPRESS」中村計 = 文)








Viewing all articles
Browse latest Browse all 1906

Trending Articles